上代特殊仮名遣い3

神は噛む説もアリ。上代特殊仮名遣いは表記の問題。(日本語の語源)

上代特殊仮名遣い3

以前、神の「み」は乙音で噛みの「み」は甲音だから、「上代特殊仮名遣い」論に従うとしたら成り立たないと書きました。しかしこの話には続きがあります。「上代特殊仮名遣い」論は正しいかのか間違いなのか、いよいよ結論です。

弥生時代の男性
へっぽこ隊長
また「神(かみ)」の語源についての話。
弥生時代の女性
さくや
以下の2つを先に読んだ方がわかりやすいです。
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上代特殊仮名遣い1
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上代特殊仮名遣い2

結局「上代特殊仮名遣い」は、
気にしなくても良い。

 

弥生時代の男性
へっぽこ隊長

「神(かみ)」の「み」は乙音で、
「上(かみ)」と「噛み」の「み」は甲音だから、

「神(かみ)」の語源が「上(かみ)」または「噛み」という説は、「上代特殊仮名遣い」論では成り立たないということを以前話した。

弥生時代の女性
さくや

一方「あくまで一時代のことだから、
あまり気にしなくていいのでは? 」
とも言ってたわね。

「理由は今度説明する」って。

弥生時代の男性
へっぽこ隊長

では本題に入る。

「神(かむ)」=「噛む」説は、
ウ行のときには同じ発音なので、問題はない。

弥生時代の女性
さくや
「神(かみ)」=「上(かみ)」説は
「上」はそもそも「かむ」とは読まないから、
違うのでは? という意見だったわね。
弥生時代の男性
へっぽこ隊長
「上」を「かむ」と読んだ形跡が見つかれば
有力候補なんだろうけどね。

神の「み」は乙音なのに、噛みの「み」は甲音。なぜ?

へっぽこ隊長

問題が生ずるのは、
奈良時代に甲音と乙音ができたときに

「神(かみ)」の「み」は「むぃ」と乙音になるのに、
「噛み」の「み」は「み」のまま甲音だと言うことだ。

弥生時代の女性
さくや

神は「かむ」から「かむぃ」に変化したのに
嚙みは「かむ」から「かみ」に変化?

これは法則と違うわね。

弥生時代の男性
へっぽこ隊長

ちなみに「噛み」の「み」が甲音であると分かるのは、

「噛み」と同根であると思われる「醸み(かみ=噛んで酒をつくること)」の「み」が甲音だからだ。

弥生時代の女性
さくや
昔はお酒を、お米を噛んで作ったのよね。
弥生時代の男性
へっぽこ隊長

それが「かもし出す」の語源。

ただし噛むのは若い女性に限る。
おじさんはヤダったみたいだ。

さくや
私も絶対に嫌!
笑顔の男性
へっぽこ隊長

それはともかく、ここで変だと思うのは、
もう一度しつこく繰り返すけど、

「神(かむ)」と「噛む」のように、
ウ行で終わる言葉がイ行なったときは、

前回紹介した
●1)a + i → E…(目・ま→まぃ→め)
●2)u + i → I…(神・かむ→かむぃ→かみ)
●3)O + i → I…(火・ほ→ほぃ→ひ)
(大文字は乙音)

の法則から言えば、どちらも乙音になるはずだ。
でも「醸み(かみ)」はそうなってはいない。

弥生時代の女性
さくや
隊長がしつこいのは分かったわ。

噛みの「み」が甲音なのは、古い時代に変化したから。

弥生時代の男性
へっぽこ隊長

それは何故かというと、奈良時代よりずっと前、
つまり4母音の時代に、

「醸み」という言葉がすでに存在していたからなんだ。

それは「日本書紀」の神武東征のくだりに
「この神酒(みき)を醸みけむ人は」
とあることからも分かる。

さくや

神武天皇の時代、

「神」はその名の「カムヤマトイワレビコ」にあるように「かむ」のまま。

「醸む」はすでに「醸み」への変化が修了してたのね。

弥生時代の男性
へっぽこ隊長
4母音時代にすでにイ行に変わっていれば、
「乙音」にはならないないというわけだ。
さくや

だから、少なくとも、ウ行で終わる言葉が
イ行なったときの「甲音」「乙音」なんて、

時代が古いか新しいかの差とだから、
気にしなくていいということね。

「神」=「噛む」説も、
「狼(おおかみ)」=「大神」説も、
とりあえず、矛盾はないのね。

日本人は「甲音」「乙音」の違いを意識してしなかった。

弥生時代の男性
へっぽこ隊長

「甲音」「乙音」の違いは、
日本人にはなじまなかったらしく、奈良時代の後期には廃れしまって、
現在の5母音とほとんど同じになっている。

というより日本人は意識してなかったと思われる。

さくや

気にしてたのは白村江の戦い後、
百済からやってきた帰化人官僚だけかも、
ということよね?

なにせ8母音を操る人たちだから。

へっぽこ隊長

むしろその生真面目さが、当時の日本語の変遷の過程を解くヒントを与えてくれたのだから、感謝しなくてはね。

本日はこれまでっ!

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