上代特殊仮名遣い2

古代日本語はの4母音。その前は3母音。上代特殊仮名遣いから分かること。(日本語の語源)

上代特殊仮名遣い2

以前の記事で「僕はどちらかというと『上代特殊仮名遣い』というのは、あくまで一時代のことだから、あまり気にしなくていいのでは?」と書きましたが、「上代特殊仮名遣い」論によって、母音の変遷の過程が解明された意義もあります。今日はその辺について書いてみます。

以前の記事。こっちから読んだ方がわかりやすいです。

関連記事

神様は空とか上の方にいるから、上(かみ)様だと思っていたら、「いやいや、昔、神は「かむ」だったのじゃ〜」と聞いて、じゃあ神の語源って「噛む」かな? とか思っていたら「だから昔の日本語の母音には甲音と乙音があって〜」⋯⋯とかいう今でも議論のあ[…]

上代特殊仮名遣い1
弥生時代の男性
へっぽこ隊長
今回は「上代特殊仮名遣い」論の続き。
弥生時代の女性
さくや
「上代特殊仮名遣い」説は、昔の日本語には8母音があったんじゃないかという説ね。

「日と火」の語源は違う?
上代特殊仮名遣いの甲音と乙音の違いから分かったこと。

 

しみじみ男性
へっぽこ隊長
例えば、今の日本語は「あいうえお」の5つの母音があるが、奈良時代以前は、「あいうお」の4つの母音だったという説がある。
弥生時代の女性
さくや
「え」が無かったの!?
だけど、文字のない時代の話でしょ?
どうして分かるの?
弥生時代の男性
へっぽこ隊長

これも「甲音と乙音」の違いから類推したんだ。

例えば前回話したように、「神(かみ)」という言葉は、神武天皇の本名が「神日本磐余彦」が「カムヤマトイワレビコ」と読まれるように、昔は「かむ」という言葉だった。

それに「い」という母音がついて「かむぃ」となって「み」の乙音が生まれた。

弥生時代の女性
さくや
「むぃ」が「み」になったのね?
なんで「い」という母音がつくようになったの?
弥生時代の男性
へっぽこ隊長

例えば今でも「走る」という動詞が「走り」となると名詞になるように「い」で終わると名詞として納まりがよくなっていったのかもな。

その他、例えば「火(ひ)」は乙音で、「日(ひ)」は甲音だが、「火」はもともと、炎(ほむら、ほのを)の用例のように、「ほ」だった。

それに「い」という母音をつけて「ほぃ」と言おうとしたから「ひ」の乙音が生まれた。

弥生時代の女性
さくや

へ〜え、じゃあ、お日様の「日」と「火」は違うんだ〜。「日」は「ほ」と読まないものね。

要は乙音というのは「うぃ」や「おぃ」などという2重母音のことなのね。

弥生時代の男性
へっぽこ隊長

子音の甲乙もあるから、そう簡単ではないけど、おおまかにはそういった解釈で良いと思う。

「木(き)」という言葉も、木立(こだち)というように、もともと「こ」だから同様。

同様に「青(あを)」という言葉から「藍(あゐ)」という言葉が生まれた。「ゐ」という言葉はもともと2重母音だから甲乙の区別はない。

弥生時代の女性
さくや
「を」は「ゐ」に変わるのか。
じゃあ「赤」は?
弥生時代の男性
へっぽこ隊長
朱(あけ)になった。
弥生時代の女性
さくや
あれ? 何でエ段になったんだろう。今までみんなイ段だったのに。

奈良時代あたりに「あいうお」に「え」が加わった?
体の一部をあらわす言葉も変化。

 

へっぽこ隊長

赤(あか)のように「ア行」で終わる言葉は朱(あけ)のようにエ行に変化したものが多い。

例えば体の一部をあらわす言葉には、
「目(ま=まなざし、まぶた、まつげ、まなこ、まばたき)」→「め」
「手(た=たづな、たうえ)」→「て」
「爪(つま/つまびく)」→「つめ」
「毛(か=しらが)」→「け」などがある。

さくや

なるほど、「ア行」が「エ行」に変化してるね。

まとめると、
「ウ行とオ行」で終わる言葉が「イ行」に変化した。
「ア行」で終わる言葉が「エ行」に変化した。

ここでそれまでの4母音に「エ行」が加わったのね?

弥生時代の男性
へっぽこ隊長

要するに「イ行とエ行」で終わる乙音の言葉は、
奈良時代あたりに新しくできた言葉。

例えば「酒(さけ)」という言葉は「エ行」の乙音で終わる。
同時に「酒(さか)屋、酒(さか)蔵、酒(さか)盛り」などの「ア行」で終わる言葉があるから、「さか」という言葉が古いと分かる。

同様に「金(かね)」は「金(かな)物」という言葉があるから「かな」という言葉が古いと分かる。

弥生時代の女性
さくや
「金(かね)持ち」という言葉なんかは「かなもち」と言わないから、新しい言葉なんだね。
弥生時代の男性
へっぽこ隊長
ちなみに「酒(さか)」の語源は、香りをあらわす「香(か)」という言葉に、「さ」という接頭語がついたとされる。
納得できない女性
さくや
接頭語?
難しい話はやめて!
納得できない男性
へっぽこ隊長
ごめん。「さ迷う」の「さ」とか「ご機嫌」の「ご」とか、次に来る言葉をちょっと飾ることばだ。

奈良時代あたりの、母音の変化の法則。

 

弥生時代の男性
へっぽこ隊長

話は戻るが、昔の「あいうお」の4つの母音の「あうお」に「ぃ」がついて、「あぃうぃおぃ」となって、甲乙合わせて8つの母音となった。

●あぃ→え(乙音)
●うぃ→い(乙音)
●おぃ→い(うぃ→いとは別の乙音)

さくや
4+3で7つじゃない。
へっぽこ隊長

「お」にも甲乙があるんだ。だから8つ。
これに関してはまた今度説明する。

要は「あいうえお」の甲音+「いえお」の乙音の8つ母音となった。

厳密に言うと、百済からやってきた官僚? にはそう聞こえた。その過程を表にすると以下になる。

左側が昔の「あ、い、う、お」の4つの母音。
右が新しくできた乙音。

(大文字は乙音
1)a + i → E…(目・ま→まぃ→め)
2)u + i → I…(神・かむ→かむぃ→かみ)
3)O + i → I…(火・ほ→ほぃ→ひ)
4)i + a → e
5)u + a → o

納得できない女性
さくや
ややこしいわ!

表の1は「あ」に「ぃ」がついて、「あぃ」となってこれが「え」になったのか。
「あぃ、あぇ、うぇ、え⋯」って感じ?
なるような、ならないような⋯、
でも、なったんだろうね〜。
あれ? 下の2つの例は?
笑顔の男性
へっぽこ隊長
例外的にある、というくらいにしておこう。
さくや

あ、私、今気付いたわ!

別に古代の人は「え」という母音を作りたかったんじゃなくて、
目(ま)のような「あ」という母音で終わる名詞を、当時流行してた「い」で終わる名詞形にしようとして⋯、

例えば目(ま)を→「まぃ」と発音してる間になまって「め」と発音するようになった。

つまり、「え」は「あぃ」と言ってる間になまってできたのよ!

納得できない男性
へっぽこ隊長
⋯⋯何言ってんだか、さっぱりわからない⋯。
しみじみ女性
さくや

⋯⋯面倒くさいから、話を元に戻すわ。

さっきの表だと
「あ、い、う、お」の4つの母音がもともとあって、

●「え、い」の乙音ができて(1〜3)
●「え」の甲音ができて(4)
●「お」の甲音ができた(5)

のよね?

「お」はもともと乙音だったの? なんで?

 

古代の日本語は「あいう」の3母音。「お」は新しい母音。

 

へっぽこ隊長

古代の母音「あ、い、う、お」の
「お」は乙音で今の発音とは違うらしい。

どういう成立過程かは分からないが、

「お」も乙音であるかぎり、
「い」と「え」の乙音よりは古いが、新しい発音

なのかも知れない。

だから、そのまた昔は「お」は存在せず、「あ、い、う」の3母音だったのではないかと言われている。

弥生時代の女性
さくや

「あ、い、う」は最も発音しやすいし、聞き取りやすい母音だわ。説得力はあると思う。

でも、何か手がかりはあるの?

弥生時代の男性
へっぽこ隊長

例えば、ちょっと昔の沖縄では「あ、い、う」3つの母音しか使わなかった。

今の人は5つ使い分けるだろうが、与那国では完全に3母音だったらしい。

つまり、標準語と比べると

●「え」は「い」になり、
●「お」は「う」になる。

「底(そこ)」は「すく」になるし、
「野(の)」は「ぬ」になる。

「沖縄(おきなわ)」という言葉も「うちなわ」となって、「うちな〜」となる。

「うちな〜ぐち」というのは沖縄方言という意味だ。

さくや
なるほど、沖縄弁にはまだ形跡が残っているのね。
弥生時代の男性
へっぽこ隊長
このへん、ややこしいから、またゆっくり。
本日はこれまでっ。
関連記事

以前、神の「み」は乙音で噛みの「み」は甲音だから、「上代特殊仮名遣い」論に従うとしたら成り立たないと書きました。しかしこの話には続きがあります。「上代特殊仮名遣い」論は正しいかのか間違いなのか、いよいよ結論です。 へっぽこ隊長[…]

上代特殊仮名遣い3
関連記事

「峠」の語源は手向けの転であると多くの辞書に載っています。僕はこの説が不自然に思えて仕方ありません。今日はそんな「峠」の話題について。 「峠(とうげ)」の語源は手向け(たむけ)ではない。   へっぽこ隊長 まず[…]

弥生時代の二人