手綱(たづな)という言葉があるように、昔、日本語の「手(て)」は「た」と発音しました。その極めて重要な「手(た)」という言葉から、実にいろんな言葉が派生しました。
今回はそんな「た」という言葉についてのお話。
田んぼと畑
平の語源は「手(た)ひら」。開くは「端(は)らく」。
今日のお題は、田んぼと畑。
「田(た)」はもとは平(たいら)とか水平という意味。
たぶん「手(た)」から派生した言葉。
「平(たいら)」の語源は「手平(たひら)」。
つまり手を開いた「手のひら」くらいに平らな状態。
「開く」の語源は「端(は)らく」。中心の複数の何かをそれぞれ端っこに寄せるニュアンス。それが「拓く」になると中心の複数の何かを切ったり消滅させるニュアンス。
「ひら」は、例えば木を切ったり草を払ったりして、拓(ひら)いたり広(ひろ)げたりしてできた土地の状態。
「原(はら)や腹(はら)」と同じ言葉で、なだらかなくらいの意味。
「平(たひら)」となると、たぶんもっと平坦なのね。
昔は開墾することを「墾る(はる)」と言い、それが「春(はる)」の語源の一つということは以前の話に出てきたわ。
「墾る(はる)」は拓(ひら)き、広(ひろ)げる活動で、原(はら)ができ、田畑ができるのね。
「手」から派生した言葉
互い、違う、抱く、焚く、滝、叩く、戦う、助くの語源
ここで先に「手(た)」から派生した言葉を記すと、
●互い=「手(た)+交い」。交互にし合うこと。
●違う(たがう)=「手(た)+交う」。
これは手と手を合わそうとしてすれ違った感じ。
これが「ちがう」に変形した。
同じようなニュアンスの言葉から分かれていった言葉ね。
それが「滝(たき)」の語源になる。
●戦う(たたかう)=叩き合う、または手手交う。
●助く(たすく)=「手(た)+助く(すく)」
「救う」に通じる語ね。
匠、企、類い、手繰る、蓄え、蛸の語源
●企(たくむ・たくらむ)=「手(た)+組む」
●類い(たぐい)=「手(た)+具合(ぐあい)」
●手繰る(たぐる)=「手(た)+繰る」
●蓄え(たくわえ)=「手(た)+加え」
●蛸(たこ)=「手(た)+こ」
蛸はつまり手のような可愛い生物という意味ね。
中国では猫は「びょう」。「みょう、みゃお」と鳴いてるのね。
犬は「けん」。「きゃんきゃん」鳴いてるのね。
馬は「まー」。⋯⋯「まー」とは鳴かないね⋯⋯。
「め」は「かもめ、つばめ」の鳥をあわらす「め」。
動物名も今度まとめよう。
畳む、辿る、たむろ、保つ、頼り・便り、たらい、他愛ない、俵の語源
●辿る(たどる)=「手(た)+取る」
●屯(たむろ)=「手(た)+群れ」。手勢の集まり。
●保つ=「た+持つ」
●頼り・便り=「手(た)+寄り」
●盥(たらい)= 「手(た)+洗い」。手洗い。
●他愛ない=「手(た)+合い+無い」。相手にならない。
●俵(たわら)=「手(た)+藁(わら)」
畑の話に行きましょう。
「はたけ」の漢字は「畑」と「畠」
意味の違いは何だと思う?
えっ?
「畑」…は火の田。
「畠」…は白い田ね。
音読みは無いんだ。
なぜなら、「畑と畠」という漢字は、
「峠」と同様に、日本人が考えた字だから。
「畑」=火の田は、焼き畑農業を連想させるね。
つまり水田のように水をはらない田のことなのかな。しかし焼き畑って、随分乱暴な農法よね。
やり方次第。昭和20年代までやられていた立派な農法だよ。
ちなみに「畠」という漢字が使われ出したのは平安時代。
「畑」は鎌倉時代で、漢字としてはこっちの方が新しい。
分からないね。
でも山間部では縄文時代以来ずっと続けられたのは事実。
明治30年に森林法が制定され、焼き畑が制限されだしてから急速に衰退していったらしい。
植林して林地化する方が儲かる時代になっていったんだろう。
耕す、民(たみ)の語源
ちなみに最後に「田(た)」にまつわる言葉。
●耕すの語源
=「田(た)+かやす」。かやすはひっくり返すこと。大阪弁では現役
●民(たみ)の語源
=「田(た)+身(み)または臣(おみ)」
田を耕してこその国民だったんだね。
今回はこれまでっ!
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