弥生時代の二人

「峠」の語源は手向けではない。「手当」は手を当てるのではない。(日本語の語源)

弥生時代の二人

「峠」の語源は手向けの転であると多くの辞書に載っています。僕はこの説が不自然に思えて仕方ありません。今日はそんな「峠」の話題について。

「峠(とうげ)」の語源は手向け(たむけ)ではない。

 

弥生時代の男性
へっぽこ隊長
まず、広辞苑で「峠(とうげ)」とい言葉を引いてみよう。
弥生時代の女性
さくや
え〜と、「タムケ(手向)の転。
通行者が道祖神に手向けをするからいう」とあるわね。
弥生時代の男性
へっぽこ隊長
次は、古語辞典を引いてみよう。
大野晋先生の「岩波古語辞典」だ。
弥生時代の女性
さくや
「タムケ(手向)の転。室町時代以降の形」とある。
そもそも手向けってなに?
弥生時代の男性
へっぽこ隊長
よく辞書には、神仏や死者の霊にささげ物をすること、と書いてるね。
次は小学館の「日本語源大辞典」。
弥生時代の女性
さくや
「たむけ(手向)」の変化したもの。
通行者がここで道祖神に手向けをしてまつり、旅路の平安を祈ったところからいう。
弥生時代の男性
へっぽこ隊長
「日本語源大辞典」には、出典も古事記伝等12書ほど列挙している。つまり古くからこの説が支持されていたことが分かる。
さくや
もう、どう考えたって、決まりよね!
怒った男性
へっぽこ隊長
僕は全然ピンとこない!
さくや
ご勝手に!

「峠(とうげ)」の語源は「たわごえ」

 

弥生時代の男性
へっぽこ隊長

ちなみに「岩波古語辞典」には

「たわ」の項で、
「山の稜線で低くたわんだ所」という解説をして、

「山のたわより御船を引き越して…」

という古事記の垂仁天皇の条を例文として挙げている。

つまり、「たわ越え」をしたんだ。

さくや
あ、「たわ越え」が「峠」の語源だと言いたいのね。
こっちの方が自然だわ。
へっぽこ隊長
そうだろ? 「たむけ」が「とうげ」になまるなんて、
どう考えても不自然だ。
ちなみに船を引いて峠を越すというのはよくあることで、例えば岬をぐるっと回るより、陸上を越えた方が安全という場合もある。「船越」という地名があったら、きっとそういう場所だ。
弥生時代の女性
さくや
大野先生も気づいてはいたけど、
文献的には「手向け」説をとらざるをえなかったのかな?
弥生時代の男性
へっぽこ隊長

きっと昔の物知りが、したり顔で文書に書いたのが、広まったんだな。昔の物知りが書いたものが、必ずしも正しいとは僕は思わない。

ちなみに「たわ」とはピンと張った糸が緩んだ感じの言葉。「たわごと」「たわけ」「たわむれ」も
たわんだ気持ちから来ていると考える。

弥生時代の女性
さくや
「たわけ」は「田分け」ではないと
以前のブログでも言ってたわね。

「手当(てあて)の語源は手を当てて病気を治すからではない

 

弥生時代の男性
へっぽこ隊長
似たような、一般に信じられている俗説に
「手当(てあて)」があるね。
弥生時代の女性
さくや
昔の人は怪我や病気を手を当てて治したというやつね。
何かのCMにもときどき出てくるわ。
弥生時代の男性
へっぽこ隊長

一見もっともらしいが、この場合の手は方角を表す「手」。

「おもて」「うらて」「かみて」「しもて」「やまのて」などの方面を指す。

例えば「うらて」から敵が攻めてきたら、その「手=方面」に手勢を繰り出したり物資を届けるのが「手当」。
活躍した人たちに褒美を出すのも「手当」。

弥生時代の女性
さくや
お給料のことを「手当」というのも
そこから来てるのね。
へっぽこ隊長
俗説の中にも、なるほどと納得してしまうものも多いから、
気をつけないとね。
今日はこれまでっ!
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