神様は空とか上の方にいるから、上(かみ)様だと思っていたら、「いやいや、昔、神は「かむ」だったのじゃ〜」と聞いて、じゃあ神の語源って「噛む」かな? とか思っていたら「だから昔の日本語の母音には甲音と乙音があって〜」⋯⋯とかいう今でも議論のあるややこしい「神」の語源について。
神様は上(かみ)さまか
「上(かみ)」様だと、普通、思うだろ?
そういう説もあるけど、反対する説もある。
神の「み」は乙音、「かむぃ」って感じだ。
それに対して、上(かみ)の「み」は甲音で違う音。
だからその説は成り立たないという考え方だ。
そういう説もあるという話。
だが、神武天皇の本名「神日本磐余彦」が「カムヤマトイワレビコ」と読まれるように、もともと神は「かむ」と言われていた。
「上」は「かむ」とは読まない。
別の言葉のようにも思える。
日本の神様って、祟るばかりで噛みつきそうだし。
昔の日本語の母音には甲音と乙音があった?
奈良時代の古事記(712年)や日本書紀(720)、万葉集(783年)には万葉仮名が使われている。
その中で、例えば「神(かみ)」は
「加微、迦微、伽未、可未、可尾」などと書かれている。
そして「上(かみ)」は「可美、賀美」などと書かれている。
神の「み」=「微、未、尾」(乙音)と
上の「み」=「美」(甲音)とは、発音が違う音なんだ。
ということは、音が今とは違っていたのでは? と考えた人がいる。
最初に気づいたのは本居宣長。
そしてそれを定説化したのが国語学者の橋本進吉。その説は「上代特殊仮名遣い」として定着した。
それを引き継いだのが岩波古語辞典を書いた大野晋さん。
僕は大野さんの本を読んだが、面倒くさくなって放り投げた。
大野晋さんって日本語とタミル語の関係を研究してた人ね。
その後、いろんな論争があり、2000年代になって藤井游惟という人が「上代日本語は現代と同じ5母音であり、上代特殊仮名遣いとは、白村江敗戦( 663年)後の百済から帰化した書記官たちが、朝鮮語の音韻感覚で日本語の条件異音を聞き分け、書き分けたものだ」という見方を発表した。
日本人は5母音で話してるつもりでも百済人には8母音に聞こえたということだ。
で、どっちが正しいの?
どっちが正しいか分からないが、この説を適用すると、
例えばよく言われている
「檜(ひのき)」の語源が「火の木」
という説は成立しなくなる。
檜の「ひ」が甲音なのに対して、火は乙音。
そもそも檜は檜皮葺(ひはだぶき)なんかの用例のように「ひ」だけで木の名として通用していたとも言える。
「杉(すぎ)」の「ぎ」は乙音。
「直ぐ」と「過ぐ」は同根だと思われ、
「過ぎ」は乙音だから正しいと思う。
「上(かみ)」も「噛む」も甲音だからダメなんでしょ?
僕はどちらかというと「上代特殊仮名遣い」というのは、あくまで一時代のことだから、あまり気にしなくていいのでは? とも思っている。理由は今度説明する。
今日はこれまで。
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